今後の掲載予定
【小説】薫と紗織の出会い
【設定】薫の戦闘スタイルや人間関係など補足
【設定】紗織のプロフィール
2013/05/01 (Wed)18:00
7
戦いの後、薫を待っていたのは両親と祖父母からのお説教だった。四人に拳骨をもらったり泣かれたりして、思い切り叱られた。
それから家に帰り、風呂に入って戦いの汗や泥などの汚れを落としていると、村中が訪ねてきた。化け猿の正体や、薫の身に起こったことについて説明したいのだという。
「美花さんと一緒になって薫を止めるどころか、たった一人でむかわせたんでおかしいとは思っとった。詳しく説明してもらいますぞ」
いつもの子どもっぽい雰囲気を消し、厳しい表情で菊翁が言った。
「それについては申し訳ないと思っています。でも、薫くんにしか村永さんを助けることはできなかった」
そう前置きして、村中は話し出した。
この世界の真実を。世界の裏側で暗躍するダークネスの存在。サイキックとよばれる不思議な力。
「薫くんのような存在は『灼滅者』と呼ばれています。薫くんは灼滅者のなかでも、清浄な風を操る力――便宜上『カミ』と私たちは呼んでいます――を身に降ろす『神薙ぎ使い』。そして、薫くんのそばにいる狼くんは『霊犬』。悪を許さない苛烈な正義の心から生まれるといわれる、魂の分身です」
村中は、自分が『武蔵坂学園』という学校の教師だと、身分を明かした。なんでも、薫のような灼滅者の子どもたちが集まる組織らしい。彼女の目的は、薫を学園に勧誘することなのだそうだ。
菊翁が理由をたずねると、村中は緊張した面持ちで指を三つ立てた。
「大きな理由としては、三つ挙げられます。一つは、力の制御。学園には、専門の研究者が大勢いますし、設備も充実しています。灼滅者の力と上手く付き合っていけるように、最大限のサポートをしていきます」
まず、一本目の指を折る。
「二つ目ですが、ダークネスや実体化都市伝説――あの化け猿もその一種です――を倒すことができるのは、サイキックを扱える灼滅者だけです。今回の事件のように、危険にさらされる人々を救うため、薫くんにも力を貸してほしいんです」
「それは、薫に兵隊になれ、ということか?」
鋭い目をむけたのは、薫の父だ。村中は、それをまっすぐに受け止める。
「否定はしません。ですが、灼滅者は唯一ダークネスの脅威となり得る存在です。そのため、これまで灼滅者に目覚めた者がいても、すぐダークネスに見つかって殺されていました。目覚めた以上戦いは避けられないでしょう。組織に入れば、敵もそう簡単には攻めて来れません。だから、薫くんの安全のため、というのも信じてください」
そして、二本目の指を折った。
「最後の理由は、先の二つにもつながるのですが、『闇堕ち』です。灼滅者の異能は、ダークネスのそれと同じものです。同じであるが故に、彼らは常にダークネスへ堕ちる危険と隣り合わせです。薫くんの場合は、『羅刹』。享楽のままに生きる鬼族」
羅刹、その単語を聞いた瞬間、薫は全身に鳥肌が立った。思わず、己の腕に目をやる。
化け猿にとどめを刺した異形の腕、あれはまさしく、鬼の腕だった。
心まで鬼と化してしまったら。
それが充分にあり得ることであると、薫は直感的に感じた。
「幸いにして、薫くんはしっかりと人の心を保っています。しかし、どんなきっかけで羅刹と化すかわからない。私たちの学園なら、闇堕ちすることがないよう全力でフォローすることができます。万一闇堕ちしても、人に戻すために可能な限りの対策を取ります」
薫たちは押し黙ってしまった。
村中は誠心誠意話してくれたように見えた。しかし、受け入れるには突然のことで、あまりにも重い話だった。
さすがに、その場で答えを出すのは難しいだろうと、村中は武蔵坂学園のパンフレットを置いて帰って行った。
「それにしても、おどろいたわねぇ」
何事にも動じない祖母も、さすがに困った様子だ。
「薫ちゃんはどうしたい?」
「ぼくは……」
パンフレットを持ったまま、薫は口ごもった。
「無理しなくていいのよ」
「ああ、学園に行かなくても、俺たちが守ってやる」
両親は薫をやりたくないようだ。しかし、村中の言うことが正しければ、薫だけでなく家族や村人たちも危険にさらす可能性だってある。
「まあ、わしらもいろいろと思うところはあるが、最終的に決めるのは薫だ。まずは一晩、ゆっくり考えてみるといい」
結局、菊翁の言葉を最後に、その場はお開きとなった。
戦いの後、薫を待っていたのは両親と祖父母からのお説教だった。四人に拳骨をもらったり泣かれたりして、思い切り叱られた。
それから家に帰り、風呂に入って戦いの汗や泥などの汚れを落としていると、村中が訪ねてきた。化け猿の正体や、薫の身に起こったことについて説明したいのだという。
「美花さんと一緒になって薫を止めるどころか、たった一人でむかわせたんでおかしいとは思っとった。詳しく説明してもらいますぞ」
いつもの子どもっぽい雰囲気を消し、厳しい表情で菊翁が言った。
「それについては申し訳ないと思っています。でも、薫くんにしか村永さんを助けることはできなかった」
そう前置きして、村中は話し出した。
この世界の真実を。世界の裏側で暗躍するダークネスの存在。サイキックとよばれる不思議な力。
「薫くんのような存在は『灼滅者』と呼ばれています。薫くんは灼滅者のなかでも、清浄な風を操る力――便宜上『カミ』と私たちは呼んでいます――を身に降ろす『神薙ぎ使い』。そして、薫くんのそばにいる狼くんは『霊犬』。悪を許さない苛烈な正義の心から生まれるといわれる、魂の分身です」
村中は、自分が『武蔵坂学園』という学校の教師だと、身分を明かした。なんでも、薫のような灼滅者の子どもたちが集まる組織らしい。彼女の目的は、薫を学園に勧誘することなのだそうだ。
菊翁が理由をたずねると、村中は緊張した面持ちで指を三つ立てた。
「大きな理由としては、三つ挙げられます。一つは、力の制御。学園には、専門の研究者が大勢いますし、設備も充実しています。灼滅者の力と上手く付き合っていけるように、最大限のサポートをしていきます」
まず、一本目の指を折る。
「二つ目ですが、ダークネスや実体化都市伝説――あの化け猿もその一種です――を倒すことができるのは、サイキックを扱える灼滅者だけです。今回の事件のように、危険にさらされる人々を救うため、薫くんにも力を貸してほしいんです」
「それは、薫に兵隊になれ、ということか?」
鋭い目をむけたのは、薫の父だ。村中は、それをまっすぐに受け止める。
「否定はしません。ですが、灼滅者は唯一ダークネスの脅威となり得る存在です。そのため、これまで灼滅者に目覚めた者がいても、すぐダークネスに見つかって殺されていました。目覚めた以上戦いは避けられないでしょう。組織に入れば、敵もそう簡単には攻めて来れません。だから、薫くんの安全のため、というのも信じてください」
そして、二本目の指を折った。
「最後の理由は、先の二つにもつながるのですが、『闇堕ち』です。灼滅者の異能は、ダークネスのそれと同じものです。同じであるが故に、彼らは常にダークネスへ堕ちる危険と隣り合わせです。薫くんの場合は、『羅刹』。享楽のままに生きる鬼族」
羅刹、その単語を聞いた瞬間、薫は全身に鳥肌が立った。思わず、己の腕に目をやる。
化け猿にとどめを刺した異形の腕、あれはまさしく、鬼の腕だった。
心まで鬼と化してしまったら。
それが充分にあり得ることであると、薫は直感的に感じた。
「幸いにして、薫くんはしっかりと人の心を保っています。しかし、どんなきっかけで羅刹と化すかわからない。私たちの学園なら、闇堕ちすることがないよう全力でフォローすることができます。万一闇堕ちしても、人に戻すために可能な限りの対策を取ります」
薫たちは押し黙ってしまった。
村中は誠心誠意話してくれたように見えた。しかし、受け入れるには突然のことで、あまりにも重い話だった。
さすがに、その場で答えを出すのは難しいだろうと、村中は武蔵坂学園のパンフレットを置いて帰って行った。
「それにしても、おどろいたわねぇ」
何事にも動じない祖母も、さすがに困った様子だ。
「薫ちゃんはどうしたい?」
「ぼくは……」
パンフレットを持ったまま、薫は口ごもった。
「無理しなくていいのよ」
「ああ、学園に行かなくても、俺たちが守ってやる」
両親は薫をやりたくないようだ。しかし、村中の言うことが正しければ、薫だけでなく家族や村人たちも危険にさらす可能性だってある。
「まあ、わしらもいろいろと思うところはあるが、最終的に決めるのは薫だ。まずは一晩、ゆっくり考えてみるといい」
結局、菊翁の言葉を最後に、その場はお開きとなった。
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あとがき、のようなもの
読んでいただきありがとうございました。
小説第八章になります。
この村中さん。実は薫のクラス(当時、井の頭小5年百合組)担任の村中・和美先生(当時、31才)です。特徴は「ワイルドでだらしない」。私のキャラクターではありませんが、NPCなので勝手に使わせていただきました。もし、皆さんのイメージと食い違ったりしてたらごめんなさい。
あとがき、のようなもの
読んでいただきありがとうございました。
小説第八章になります。
この村中さん。実は薫のクラス(当時、井の頭小5年百合組)担任の村中・和美先生(当時、31才)です。特徴は「ワイルドでだらしない」。私のキャラクターではありませんが、NPCなので勝手に使わせていただきました。もし、皆さんのイメージと食い違ったりしてたらごめんなさい。
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