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今後の掲載予定 【小説】薫と紗織の出会い 【設定】薫の戦闘スタイルや人間関係など補足 【設定】紗織のプロフィール
2024/11/23 (Sat)18:32
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2013/04/21 (Sun)21:27

 夏祭りで奉納される神楽は、片手に鈴、片手に刀を持って舞う。普段の練習では模造刀を使うが、本番では真剣の日本刀を用いるため、自分や他の舞い手を傷つけぬよう細心の注意を払う必要があった。
 舞台の裏で、薫は緊張した面持ちで出番を待っていた。遠くからは、祭りを楽しむ人々のにぎやかな声が聞こえてくる。長いような短いような時間が過ぎて、とうとう神楽の時間が訪れた。
 すう、と深呼吸を一つして、薫は舞台にむかった。
 神楽の舞台は拝殿の正面にある。薫たち舞い手は拝殿に一礼したのち、位置についた。
 精神を統一し、片手を無造作に振る。
 シャン
 鈴の音がひとつに重なって響くのを合図に、楽師たちが演奏を始めた。
 清涼な音色に乗って、薫は舞い始める。
 ゆっくりと流れるように、しかし時にはすばやく。鈴を鳴らすタイミング、刀を振るう太刀筋、手足の動き。これまで教わったことをなぞるように、全神経を集中する。

 人だかりから少し離れたところで神楽を見る村中は、ほぉっとため息をついた。
 一心に舞う薫の姿からは、昼に出会った時の愛らしさは影をひそめ、鳥肌が立つような神々しさが感じられる。その小さな身体は大人に囲まれても決して色あせることなく、むしろ周りを巻き込んでうずの中心にいるかのように見えた。
「すごいな」
 感嘆の声をもらすと、隣にいる月音もうなずいた。
「そうですね。でも……」
 この違和感はなんだろう。
 菊翁と話し、お祓いをしてもらって消えたはずの不安が、むくむくと頭をもたげてくる。
 あそこいるのは本当に薫だろうか。そんな思いが胸の中でうずまく。
 お祓いしてもらった時にお守りだと渡された護符を、月音は両手で握りしめた。
「……薫くん」
 祈るように薫を見つめる月音は、闇の中から自分を見つめる目があることに気づかない。

 舞っているうちに、薫は不思議な感覚の中にいた。
 なにかが身体全体に満ちていくようだ。考えるより先に身体が動く。否、なにも考えずに動いている。身体が意識を超えたような感覚。否、意識など完全に溶けてしまっている。他の舞い手も見えていない。否、見えているものなど一つもない。
 無念無想の境地で、鈴を鳴らし、刀で空を断つ。
 そして最後に鈴を力強くシャリンと鳴らし、薫は気を失った。

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ーーーーーーーーー
あとがき、のようなもの

読んでいただきありがとうございました。
小説第三章になります。

神楽の参考にした龍田風鎮祭では、鈴・両手に刀・鈴と刀の三通りがあるそうです。
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