今後の掲載予定
【小説】薫と紗織の出会い
【設定】薫の戦闘スタイルや人間関係など補足
【設定】紗織のプロフィール
2013/05/19 (Sun)20:54
薫が灼滅者になってから10ヶ月。これまで、さまざまな事件と関わってきた。
都市伝説や眷属、ダークネス。時には相手の生命を奪うこともあったし、すでに被害者が出てしまっていたこともあった。
しかし、相手は倒すべき敵であり、人の形をしていることがあろうと、人ではない。また、被害者は皆、エクスブレインの予知より前の出来事、つまり、薫の目の前で起こったわけではなかった。そう言う意味で、薫は未だに『人殺し』を直接目にした経験がない。それは人として幸運なことであり、この先戦い続けるにあたっては致命的なものとなり得る危うさであった。
そして、今回に限ってみれば、それは後者であった。
六六六人衆が刀を振り上げるのが、妙にゆっくりと感じられた。
あれが振り下ろされれば、足元に横たわっている仲間の生命が散るのだと、どこか遠くのことのように思った。
霊犬のしっぺが庇おうと走ったが、蹴り飛ばされてしまった。割り込んで受け止めるスキも、相手に怒りを抱かせる攻撃で引き付けるヒマもない。
……どうすれば。
『ヒヒッ♪ わかってるくせに』
「でも、それは」
かつて知人が堕ちたことがある。堕ちた人を救いに行ったことがある。残された人々がどんな思いをするかはよく知っていたし、友人や家族にそんな思いはさせたくない。……だが、
『んなこと言ってる場合?』
面識はなかったが、教室の片隅でともに作戦を考えた仲間。否、たとえ見知らぬ人であったとしても、助ける方法が目の前にあるのなら。
「……そうだね。いいよ」
『応っ!』
恐怖を誤魔化すように朗々と上げていた祝詞は、いつの間にか途絶えていた。
オオンッ!?
しっぺの戸惑うような鳴き声が聞こえた。
(……ごめん)
己の半身を道連れにすることにかすかな罪悪感を覚えながら、薫は身の内に眠る力に手を伸ばす。清らかで激しいカミの風ではなく、本来ならば鎮めなければならない悪しき風荒き水。
斬。
風の刃を放った、と思った時には、すでに六六六人衆の刀を弾き飛ばしていた。
「……はは、カミを降ろすのとはわけが違うや」
自らの力におののく薫は、口元に笑みを浮かべていた。
際限なくあふれてくるものに、逆らうことができない。
「あっはははは!」
「ほう、もう一人は羅刹か」
黒曜石の角を生やし、ケラケラと哄笑する薫を見て、六六六人衆は満足げに哂った。
別の仲間も堕ちたのだと察したが、羅刹と化した薫はそれがどうしたと言わんばかりに腕を巨大化させ、六六六人衆に殴りかかる。
「ニィヒヒッ。死ねや♪」
「悪いが、貴様らが堕ちた以上、もう遊んでやる理由はないな」
六六六人衆はコートを翻し、走り去った。
風刃を放ちながら追うが、その後ろ姿はあっという間に消え去った。
「ははははは! あーははははは!」
見失っても薫は足を止めず、むしろより一層スピードをあげる。
聞こえるのは子鬼の笑い声だけだ。
かすかに残っていた”薫”としての意識も、もうすぐ笑い声に飲みこまれてしまうだろう。
ちらりと背後を振り返ると、仲間の姿はとっくに見えなくなっていて、しっぺが後を追ってくるだけだ。
「あーははははははははははっっっ!!!」
高らかに笑う子鬼の目から、笑い涙が一筋零れた。
都市伝説や眷属、ダークネス。時には相手の生命を奪うこともあったし、すでに被害者が出てしまっていたこともあった。
しかし、相手は倒すべき敵であり、人の形をしていることがあろうと、人ではない。また、被害者は皆、エクスブレインの予知より前の出来事、つまり、薫の目の前で起こったわけではなかった。そう言う意味で、薫は未だに『人殺し』を直接目にした経験がない。それは人として幸運なことであり、この先戦い続けるにあたっては致命的なものとなり得る危うさであった。
そして、今回に限ってみれば、それは後者であった。
六六六人衆が刀を振り上げるのが、妙にゆっくりと感じられた。
あれが振り下ろされれば、足元に横たわっている仲間の生命が散るのだと、どこか遠くのことのように思った。
霊犬のしっぺが庇おうと走ったが、蹴り飛ばされてしまった。割り込んで受け止めるスキも、相手に怒りを抱かせる攻撃で引き付けるヒマもない。
……どうすれば。
『ヒヒッ♪ わかってるくせに』
「でも、それは」
かつて知人が堕ちたことがある。堕ちた人を救いに行ったことがある。残された人々がどんな思いをするかはよく知っていたし、友人や家族にそんな思いはさせたくない。……だが、
『んなこと言ってる場合?』
面識はなかったが、教室の片隅でともに作戦を考えた仲間。否、たとえ見知らぬ人であったとしても、助ける方法が目の前にあるのなら。
「……そうだね。いいよ」
『応っ!』
恐怖を誤魔化すように朗々と上げていた祝詞は、いつの間にか途絶えていた。
オオンッ!?
しっぺの戸惑うような鳴き声が聞こえた。
(……ごめん)
己の半身を道連れにすることにかすかな罪悪感を覚えながら、薫は身の内に眠る力に手を伸ばす。清らかで激しいカミの風ではなく、本来ならば鎮めなければならない悪しき風荒き水。
斬。
風の刃を放った、と思った時には、すでに六六六人衆の刀を弾き飛ばしていた。
「……はは、カミを降ろすのとはわけが違うや」
自らの力におののく薫は、口元に笑みを浮かべていた。
際限なくあふれてくるものに、逆らうことができない。
「あっはははは!」
「ほう、もう一人は羅刹か」
黒曜石の角を生やし、ケラケラと哄笑する薫を見て、六六六人衆は満足げに哂った。
別の仲間も堕ちたのだと察したが、羅刹と化した薫はそれがどうしたと言わんばかりに腕を巨大化させ、六六六人衆に殴りかかる。
「ニィヒヒッ。死ねや♪」
「悪いが、貴様らが堕ちた以上、もう遊んでやる理由はないな」
六六六人衆はコートを翻し、走り去った。
風刃を放ちながら追うが、その後ろ姿はあっという間に消え去った。
「ははははは! あーははははは!」
見失っても薫は足を止めず、むしろより一層スピードをあげる。
聞こえるのは子鬼の笑い声だけだ。
かすかに残っていた”薫”としての意識も、もうすぐ笑い声に飲みこまれてしまうだろう。
ちらりと背後を振り返ると、仲間の姿はとっくに見えなくなっていて、しっぺが後を追ってくるだけだ。
「あーははははははははははっっっ!!!」
高らかに笑う子鬼の目から、笑い涙が一筋零れた。
つづく
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