今後の掲載予定
【小説】薫と紗織の出会い
【設定】薫の戦闘スタイルや人間関係など補足
【設定】紗織のプロフィール
2014/06/23 (Mon)00:12
_紗織が、遊園地で角の生えた男の子に襲われてから、一週間ほど過ぎていた。
大勢の人が一度に意識を失うという奇妙な事件であったが、なぜだか一切ニュースにならなかった。
腑に落ちなかったが、同じくその場に居合わせた月音に相談しようにも、
……月音は月音で、それどころじゃないみたいだしね。
胸の内で嘆息して、昇降口で上履きに履き替えていると、月音の姿が目に入った。
「おはよう、月音」
「……あ、紗織ちゃん。おはよう」
声をかけると、月音は元気のない笑顔を返した。
目の下にはうっすらと隈が浮いており、ふんわり真綿のように軽やかな髪も、心なしか湿り気を含んだようにうなだれている。
「まだ、見つからないの?」
「……うん」
紗織が訊くと、月音はへにゃりと目じりを下げた。
何でも、月音の幼馴染が、行方不明になっているそうなのだ。月音がそのことを知ったのが、遊園地から帰ってきたその日。はじめの二、三日は部屋にこもりっぱなしで、最近やっと学校には顔を出すようになったが、まだ声をかけづらい様子だった。
そんなわけで、紗織も遊園地での事件のことを相談する機会を見つけられずにいたのであった。
「そう……きっとだいじょうぶよ。無事を信じて」
そんな言葉しかかけられない自分を歯がゆく思いながら、肩をたたくと、月音は小さくうなずいた。
「うん、そうだね。あたしが信じないでどうする、だよね」
『薫くんは、絶対だいじょうぶ』
ふいに、月音の言葉にかぶさるようにして、『声』が紗織に届いた。
「……カオルくん?」
無意識にこぼれた声を聞きとったか、月音が目を丸くする。
「あれ、声に出してた?」
「え、あ……ま、まあね」
気まずそうに目を泳がせる紗織に、月音は首を傾げた。
「あ、私トイレに行くから、先に教室行っといて」
「え? う、うん。分かった」
怪訝な顔をしながらも、ひとり教室へむかう月音を見送ると、紗織は額を抑え溜め息をついた。
「……まただ」
今朝の父も、先ほどの月音も、決して声に出していたわけではなかった。
遊園地から帰って来たころから、頭を悩ませてきたことだった。
「……心の声が聞こえるなんて、どこのマンガよ」
ときおり、そばにいる人の声が耳に届くようになった。ところが、その人は何も言っていないという。
最初は、空耳かと思った。疲れのせいだと放っておこうとしたのだが、聞こえてきた声が、その人が考えている内容に一致しているのだと知ると途端に恐ろしくなった。
それほど頻繁に聞こえるわけではないが、他人の心の声が聞こえるなど、しかも己の意志に関わらず聞いてしまうなど、どうしたらいいかわけが分からなかった。かといって、だれかに相談しようにも、紗織が心を読めると知られたら、どんな目で見られるか、そう思うと、だれにも打ち明けることもできずにいた。
「……教室行くかな」
物憂げに、紗織が教室へと足をむけた、そのときだった。
紗織の耳に、『声』が届いた。
きた、と身をこわばらせる紗織だが、
『〇◆☆※▲』
「え?」
きょとんと目を瞬いた。
これまで聞こえた心の声は、ちゃんと意味のある言葉だった。しかし、今回聞こえてきたのは、それとは異質な、たんなる言葉の羅列。まるで、何も考えず適当に声だけ出しているかのような、まったく無意味なもの。こんな『声』を聞いたのは、はじめてだった。
……いったい、だれの?
辺りを見回すが、紗織がいるは登校時間の校内。生徒や教職員が大勢いたし、『声』が聞こえたのはほんの一瞬だ。だれだったのかを特定することは不可能だった。
「…………」
ざわつく胸を抑えながら、紗織は『声』の主を探すのをあきらめて、教室へむかうのだった。
大勢の人が一度に意識を失うという奇妙な事件であったが、なぜだか一切ニュースにならなかった。
腑に落ちなかったが、同じくその場に居合わせた月音に相談しようにも、
……月音は月音で、それどころじゃないみたいだしね。
胸の内で嘆息して、昇降口で上履きに履き替えていると、月音の姿が目に入った。
「おはよう、月音」
「……あ、紗織ちゃん。おはよう」
声をかけると、月音は元気のない笑顔を返した。
目の下にはうっすらと隈が浮いており、ふんわり真綿のように軽やかな髪も、心なしか湿り気を含んだようにうなだれている。
「まだ、見つからないの?」
「……うん」
紗織が訊くと、月音はへにゃりと目じりを下げた。
何でも、月音の幼馴染が、行方不明になっているそうなのだ。月音がそのことを知ったのが、遊園地から帰ってきたその日。はじめの二、三日は部屋にこもりっぱなしで、最近やっと学校には顔を出すようになったが、まだ声をかけづらい様子だった。
そんなわけで、紗織も遊園地での事件のことを相談する機会を見つけられずにいたのであった。
「そう……きっとだいじょうぶよ。無事を信じて」
そんな言葉しかかけられない自分を歯がゆく思いながら、肩をたたくと、月音は小さくうなずいた。
「うん、そうだね。あたしが信じないでどうする、だよね」
『薫くんは、絶対だいじょうぶ』
ふいに、月音の言葉にかぶさるようにして、『声』が紗織に届いた。
「……カオルくん?」
無意識にこぼれた声を聞きとったか、月音が目を丸くする。
「あれ、声に出してた?」
「え、あ……ま、まあね」
気まずそうに目を泳がせる紗織に、月音は首を傾げた。
「あ、私トイレに行くから、先に教室行っといて」
「え? う、うん。分かった」
怪訝な顔をしながらも、ひとり教室へむかう月音を見送ると、紗織は額を抑え溜め息をついた。
「……まただ」
今朝の父も、先ほどの月音も、決して声に出していたわけではなかった。
遊園地から帰って来たころから、頭を悩ませてきたことだった。
「……心の声が聞こえるなんて、どこのマンガよ」
ときおり、そばにいる人の声が耳に届くようになった。ところが、その人は何も言っていないという。
最初は、空耳かと思った。疲れのせいだと放っておこうとしたのだが、聞こえてきた声が、その人が考えている内容に一致しているのだと知ると途端に恐ろしくなった。
それほど頻繁に聞こえるわけではないが、他人の心の声が聞こえるなど、しかも己の意志に関わらず聞いてしまうなど、どうしたらいいかわけが分からなかった。かといって、だれかに相談しようにも、紗織が心を読めると知られたら、どんな目で見られるか、そう思うと、だれにも打ち明けることもできずにいた。
「……教室行くかな」
物憂げに、紗織が教室へと足をむけた、そのときだった。
紗織の耳に、『声』が届いた。
きた、と身をこわばらせる紗織だが、
『〇◆☆※▲』
「え?」
きょとんと目を瞬いた。
これまで聞こえた心の声は、ちゃんと意味のある言葉だった。しかし、今回聞こえてきたのは、それとは異質な、たんなる言葉の羅列。まるで、何も考えず適当に声だけ出しているかのような、まったく無意味なもの。こんな『声』を聞いたのは、はじめてだった。
……いったい、だれの?
辺りを見回すが、紗織がいるは登校時間の校内。生徒や教職員が大勢いたし、『声』が聞こえたのはほんの一瞬だ。だれだったのかを特定することは不可能だった。
「…………」
ざわつく胸を抑えながら、紗織は『声』の主を探すのをあきらめて、教室へむかうのだった。
To be continued
オープニングのつづきです。
紗織の父、藤一郎さんにつづいて、序章にも顔を出した親友の月音が登場。
月音は薫の幼馴染。
薫が闇堕ちして行方不明になったら、きっと月音にも報らせがいったろうし、ショックで寝込んだりしたんだろうな、と思いながら書きました。……闇堕ちは、残された側のことを考えるのも楽しいですねー。
で、前章でも軽く触れましたが、紗織に異能が発現し始めてます。灼滅者の皆様なら、きっとこの異能の正体もお分かりですよね。
次回でオープニングは終了予定。そろそろ、事件が動き始める、はず!
PR
Comment
プロフィール
性別:
非公開
最新記事
(01/25)
(11/30)
(09/06)
(07/13)
(06/13)
P R