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【小説】薫と紗織の出会い
【設定】薫の戦闘スタイルや人間関係など補足
【設定】紗織のプロフィール
2014/04/15 (Tue)20:24
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五月晴れの空を見上げ、田抜・紗織はまぶしそうに目を細めた。
「いい天気」
「うん、晴れてよかったね。せっかくの遊園地だもの」
となりで、同じクラスの少女、村永・月音がはしゃいだ声を上げた。
ふたりが訪れていたのは、都内にある遊園地。紗織は大して興味があったわけでもないのだが、月音がどうしても来たいとかで、なかばひきづられるような形で強引につれてこられたのである。
紗織は16歳。つややかな黒髪を腰まで伸ばし、暗がりのなかの熾火を思わせる暗い赤の瞳には気の強そうなひかりが宿っていた。
美人と呼んで差し支えのない容姿ではあるものの、髪は適当に紐で束ねただけ。服装は無地のシャツにジーンズで装飾品もなく、遊園地に遊びに来た女子高生にしてはあまりに化粧っ気のないいでたちだった。
それに対して、月音は淡い桃色のブラウスにショートパンツ。軽やかな栗色の髪やとろんとしたたれ目の幼そうな顔立ちに、花柄のブラウスがよく似合っている。
「紗織ちゃん、はやくはやく! まずはあれに乗ろうよ!」
「はいはい」
まるで幼子のように、待ちきれない様子で紗織の手を引く月音に、紗織は微笑みを浮かべてついて行く。
童顔で、どこか浮世離れした雰囲気の級友は、高2のくせにこういった子供っぽいしぐさが妙に似合うのだ。
「あたしね、すっごく楽しみにしてたんだ。そのせいで、昨日はあんまり眠れなくて……ふぁあ」
列に並んだ月音は、興奮を隠せない様子だったが、ふいにあくびをして瞬きをした。
「あれ、おかし……むにゃ」
「ち、ちょっと月音!?」
いきなり脱力して倒れそうになった月音を、紗織はあわてて抱きとめた。月音は紗織の腕の中で、のんきに寝息を立てている。それから間をおかず、ばたばたと倒れる音が立て続けに聞こえて、辺りを見まわして仰天した。
「こ、これは……!?」
見渡すかぎりのすべての人が、地に倒れていたのだ。先ほどまでの人声やざわめきが消え、人々の寝息やいびき、遊園地の音楽だけがひびいている。
異様な風景だった。
月音を抱えたまま呆然と立尽くす紗織の耳に、突然きょとんとした人声が飛び込んできた。
『んにゃ? 何で寝ないの?』
声のするほうに顔を向けると、遊園地の奥から、男の子が歩いてくるのが見えた。両手にお菓子を抱えてむしゃむしゃと口を動かしている。
雪のように白い髪の持ち主だった。小柄でかわいらしい顔立ちなので、女の子と見違えそうである。
着ている水干は刃物で切り裂かれたようにズタズタで、黒ずんだ血痕のようなものであちこちが汚れている。凄惨な服装と、お菓子をほおばる無邪気な表情とがかみあわず、不気味に感じられた。
『んー、ダークネスって感じじゃないし、灼滅者?』
「……何?」
男の子の口から聞きなれない単語が飛び出し、紗織は眉をひそめた。その様子を見て何と思ったのか、男の子はニィッと悪戯を思いついた悪ガキのように笑った。
『何にも知らないんだ? へえ、面白いんだァ♪』
男の子がお菓子を放り捨てたのを見て、紗織の背筋がひやりと凍った。月音を抱きかかえたまま反転すると全力で走り出す。
『逃がさない☆』
歌うような声がすぐ後ろで聞こえたかと思うと、背中に衝撃を受けて紗織は地面を転がっていた。
「かっ、は!?」
なんとか受身を取ったものの、肋骨がきしみを上げて、すぐには起き上がることができない。
男の子は、紗織が取り落とした月音には目もくれず、こちらに歩いてくる。
『退屈してたところだったんだ。ちょっと遊んでよ』
震える両足を叱咤して、やっとのことで立ち上がる紗織に、男の子は笑顔を向ける。
まるで子どもが遊びに誘うようなだが、そんなかわいらしい話だとは、とても思えない。
『さあ、行くよ!』
軽く地面をけった、と思ったときには、男の子は紗織のふところに飛び込み、右の拳を放とうとしていた。
「くっ!」
反射的に右手で男の子の正拳をそらすと、そのまま手首をつかんで固定。左手でこめかみを打った。
『おわっ!?』
驚いた声を上げる男の子に、追撃を見舞おうとした紗織は、ギョッとして飛びのいた。
震える指先で、男の子の額を指す。
「な、そ、それって……つ、角?」
そこには、硬質な漆黒の角が二本、生えていた。ただの装飾品にしては妙に活き活きと感じられて、本物であろうと紗織は直感的に感じた。
『ニィヒヒヒッ! ホントに知らないんだねー。じゃ、これも見たことないんだ?』
ケラケラと哄笑して、男の子は右腕を振り上げた。
グッと力強く拳を握ると、腕が赤黒く染まり、メキメキと音を立てて巨大化していく。
「な、何よそれ!」
紗織は色を失って叫んだ。男の子の右腕は、原型をとどめておらず、鬼のそれと化していた。いくらなんでも、理解の範疇を超えている。
『《鬼神変》っていうんだ、よっと!』
言いながら、男の子は異形の右腕を紗織にたたきつけた。
間一髪、身を投げ出すようにしてかわすと、さっきまで紗織が立っていた地面に、巨大な腕がめり込んでいた。あんなものを身に受けたらと思うと、ぞっとする。
腰が引けて後じさる紗織の視界の隅に、ふと横たわる月音の姿が映った。
……たとえ逃げられたとしても、そうしたら月音はどうなるか。
その葛藤が、隙をつくった。
『そう、れぃ!』
耳を打つ掛け声に、ハッと向き直ると、紗織を押しつぶすように鬼の拳が降ってくるところだった。
……かわせない!
そう察知した体が、恐怖で硬直した。
そのときだった。
オオーーンッ!!
遠吠えが聞こえたかと思うと、紗織と男の子の間の地面に、ちいさな白い影が飛び込んできた。
ガキッ、とまるで鉄同士がぶつかったような音を立て、男の子の怪腕をはじき返した影の正体を見て、紗織はあんぐりと口を開いた。
「犬……いや、ひょうっとして、狼?」
それは、純白の毛皮を持った狼だった。大きさは柴犬の成犬ほどだろうか。口に刀をくわえ、首からは昔の銭を思わせる金の円盤。背には幾枚もの護符が貼られている。
狼は男の子へ刀を向けて低いうなり声を上げた。
『ったく、いいとこで邪魔すんだから。はいはい、分かったよ。……じゃ、また遊ぼうや、お姉さん?』
男の子は白けたように右腕の異形化を解くと、紗織に手を振って走り去っていく。
狼は、呆気にとられている紗織を一瞥し、男の子の後を追ってその場を後にした。
しばらく呆然としていた紗織だったが、我に返ると慌てて月音の許へ駆け寄った。
「……いったい、何だったの?」
紗織のつぶやきに答える者はなく、ただ虚しく空へと消えていった。
五月晴れの空を見上げ、田抜・紗織はまぶしそうに目を細めた。
「いい天気」
「うん、晴れてよかったね。せっかくの遊園地だもの」
となりで、同じクラスの少女、村永・月音がはしゃいだ声を上げた。
ふたりが訪れていたのは、都内にある遊園地。紗織は大して興味があったわけでもないのだが、月音がどうしても来たいとかで、なかばひきづられるような形で強引につれてこられたのである。
紗織は16歳。つややかな黒髪を腰まで伸ばし、暗がりのなかの熾火を思わせる暗い赤の瞳には気の強そうなひかりが宿っていた。
美人と呼んで差し支えのない容姿ではあるものの、髪は適当に紐で束ねただけ。服装は無地のシャツにジーンズで装飾品もなく、遊園地に遊びに来た女子高生にしてはあまりに化粧っ気のないいでたちだった。
それに対して、月音は淡い桃色のブラウスにショートパンツ。軽やかな栗色の髪やとろんとしたたれ目の幼そうな顔立ちに、花柄のブラウスがよく似合っている。
「紗織ちゃん、はやくはやく! まずはあれに乗ろうよ!」
「はいはい」
まるで幼子のように、待ちきれない様子で紗織の手を引く月音に、紗織は微笑みを浮かべてついて行く。
童顔で、どこか浮世離れした雰囲気の級友は、高2のくせにこういった子供っぽいしぐさが妙に似合うのだ。
「あたしね、すっごく楽しみにしてたんだ。そのせいで、昨日はあんまり眠れなくて……ふぁあ」
列に並んだ月音は、興奮を隠せない様子だったが、ふいにあくびをして瞬きをした。
「あれ、おかし……むにゃ」
「ち、ちょっと月音!?」
いきなり脱力して倒れそうになった月音を、紗織はあわてて抱きとめた。月音は紗織の腕の中で、のんきに寝息を立てている。それから間をおかず、ばたばたと倒れる音が立て続けに聞こえて、辺りを見まわして仰天した。
「こ、これは……!?」
見渡すかぎりのすべての人が、地に倒れていたのだ。先ほどまでの人声やざわめきが消え、人々の寝息やいびき、遊園地の音楽だけがひびいている。
異様な風景だった。
月音を抱えたまま呆然と立尽くす紗織の耳に、突然きょとんとした人声が飛び込んできた。
『んにゃ? 何で寝ないの?』
声のするほうに顔を向けると、遊園地の奥から、男の子が歩いてくるのが見えた。両手にお菓子を抱えてむしゃむしゃと口を動かしている。
雪のように白い髪の持ち主だった。小柄でかわいらしい顔立ちなので、女の子と見違えそうである。
着ている水干は刃物で切り裂かれたようにズタズタで、黒ずんだ血痕のようなものであちこちが汚れている。凄惨な服装と、お菓子をほおばる無邪気な表情とがかみあわず、不気味に感じられた。
『んー、ダークネスって感じじゃないし、灼滅者?』
「……何?」
男の子の口から聞きなれない単語が飛び出し、紗織は眉をひそめた。その様子を見て何と思ったのか、男の子はニィッと悪戯を思いついた悪ガキのように笑った。
『何にも知らないんだ? へえ、面白いんだァ♪』
男の子がお菓子を放り捨てたのを見て、紗織の背筋がひやりと凍った。月音を抱きかかえたまま反転すると全力で走り出す。
『逃がさない☆』
歌うような声がすぐ後ろで聞こえたかと思うと、背中に衝撃を受けて紗織は地面を転がっていた。
「かっ、は!?」
なんとか受身を取ったものの、肋骨がきしみを上げて、すぐには起き上がることができない。
男の子は、紗織が取り落とした月音には目もくれず、こちらに歩いてくる。
『退屈してたところだったんだ。ちょっと遊んでよ』
震える両足を叱咤して、やっとのことで立ち上がる紗織に、男の子は笑顔を向ける。
まるで子どもが遊びに誘うようなだが、そんなかわいらしい話だとは、とても思えない。
『さあ、行くよ!』
軽く地面をけった、と思ったときには、男の子は紗織のふところに飛び込み、右の拳を放とうとしていた。
「くっ!」
反射的に右手で男の子の正拳をそらすと、そのまま手首をつかんで固定。左手でこめかみを打った。
『おわっ!?』
驚いた声を上げる男の子に、追撃を見舞おうとした紗織は、ギョッとして飛びのいた。
震える指先で、男の子の額を指す。
「な、そ、それって……つ、角?」
そこには、硬質な漆黒の角が二本、生えていた。ただの装飾品にしては妙に活き活きと感じられて、本物であろうと紗織は直感的に感じた。
『ニィヒヒヒッ! ホントに知らないんだねー。じゃ、これも見たことないんだ?』
ケラケラと哄笑して、男の子は右腕を振り上げた。
グッと力強く拳を握ると、腕が赤黒く染まり、メキメキと音を立てて巨大化していく。
「な、何よそれ!」
紗織は色を失って叫んだ。男の子の右腕は、原型をとどめておらず、鬼のそれと化していた。いくらなんでも、理解の範疇を超えている。
『《鬼神変》っていうんだ、よっと!』
言いながら、男の子は異形の右腕を紗織にたたきつけた。
間一髪、身を投げ出すようにしてかわすと、さっきまで紗織が立っていた地面に、巨大な腕がめり込んでいた。あんなものを身に受けたらと思うと、ぞっとする。
腰が引けて後じさる紗織の視界の隅に、ふと横たわる月音の姿が映った。
……たとえ逃げられたとしても、そうしたら月音はどうなるか。
その葛藤が、隙をつくった。
『そう、れぃ!』
耳を打つ掛け声に、ハッと向き直ると、紗織を押しつぶすように鬼の拳が降ってくるところだった。
……かわせない!
そう察知した体が、恐怖で硬直した。
そのときだった。
オオーーンッ!!
遠吠えが聞こえたかと思うと、紗織と男の子の間の地面に、ちいさな白い影が飛び込んできた。
ガキッ、とまるで鉄同士がぶつかったような音を立て、男の子の怪腕をはじき返した影の正体を見て、紗織はあんぐりと口を開いた。
「犬……いや、ひょうっとして、狼?」
それは、純白の毛皮を持った狼だった。大きさは柴犬の成犬ほどだろうか。口に刀をくわえ、首からは昔の銭を思わせる金の円盤。背には幾枚もの護符が貼られている。
狼は男の子へ刀を向けて低いうなり声を上げた。
『ったく、いいとこで邪魔すんだから。はいはい、分かったよ。……じゃ、また遊ぼうや、お姉さん?』
男の子は白けたように右腕の異形化を解くと、紗織に手を振って走り去っていく。
狼は、呆気にとられている紗織を一瞥し、男の子の後を追ってその場を後にした。
しばらく呆然としていた紗織だったが、我に返ると慌てて月音の許へ駆け寄った。
「……いったい、何だったの?」
紗織のつぶやきに答える者はなく、ただ虚しく空へと消えていった。
――――To be continued
読んで下さった方には心から感謝を
今回は以前に書いた子鬼(薫ver.闇堕ち)と紗織の出会いのリメイクになります。
これから、紗織と薫の出会いの物語を書いていきたいと思います。
シリーズ完結がいつになるかはわかりませんが、ゆるゆると書き進めて行きたいです。
とっても遅筆ですが、最低でも2か月に一本は上げたいなぁ。
これからも読んでやろうなんて奇特な方がいらっしゃったら、拍手とかしてくださると執筆の励みとなります。
ではでは、
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