今後の掲載予定
【小説】薫と紗織の出会い
【設定】薫の戦闘スタイルや人間関係など補足
【設定】紗織のプロフィール
2014/07/27 (Sun)13:32
_終礼を終えると、紗織はそそくさと教室を後にした。
紗織はもともと帰宅部なので、特別予定がない限りはまっすぐ家に帰るのが日常だった。もっとも、今の紗織は、所属しているクラブがあったとしても、行く気にはなれなかっただろう。
「……はあ」
憂鬱な溜め息がこぼれた。
他人の心の『声』は相変わらず聞こえてくる。収まるどころか、日に日に聞こえてくる頻度は多くなっていた。聞いたからといってどうにかなるような、たいした内容は聞こえてこないが、だからといって気にしないでいられるわけでもなく、気がめいる一方だ。
……この調子だと、そのうち登校できなくなりそうね。
胸の内でつぶやいて、紗織はふたたび溜め息をついた。
「紗織ちゃん、大丈夫?」
後から追いかけてきた月音が、心配そうに紗織の顔を覗き込んだ。
「顔色悪いよ? それに最近、あたしも他の人のことも避けてるみたいだし」
幼馴染が行方不明だとかで、ずっと落ち込んでいた月音だったが、先日、それが無事に見つかったという連絡を受けて立ち直っていた。
元気になってやっと周囲へ目を剥ける余裕ができたようで、紗織の様子がおかしいことにも気付きやたら気にかけてくるようになった。
「ああ……ごめん、ちょっとね」
まさか、ついうっかり心の『声』を聞いてしまいたくないから避けているのだ、などと言うわけにもいかず、紗織はあいまいな笑みを返した。
それを見て何を思ったか、月音は口元に不満そうな色を浮かべていっとき思案していたが、
「……紗織ちゃん、これから予定ある?」
と、唐突にたずねた。
「え、っと……夕飯の買い物してから帰るつもりだけど」
下校途中のスーパーで夕飯の買い物をするのも、紗織の日課であった。
「ん、じゃあ、あたしもいっしょにいく」
「えっ?」
急な展開についていけず、目を白黒させる紗織に、月音はニコリと笑みをむけた。
「ほら、あたしが自炊してるの知ってるでしょ? 今日は、紗織ちゃんと同じお店で買い物する」
月音は田舎から単身上京してきていて、学校の寮に下宿しているのを紗織は知っていた。寮には食堂もついているが、自炊する生徒も多いという。
「別にいいけど……遠いわよ?」
「気にしない気にしない。さ、そうと決まれば早く行こう!」
困惑を浮かべながらも、月音の勢いに押し切られてしまった紗織であった。
学校から電車で駅を四つ下り、少し歩いたところに、紗織行きつけのスーパーがあった。
「やあ、こうやってふたりでお出かけするのも、久し振りだね」
紗織と並んで歩きながら、月音が言った。
「この間、いっしょに遊園地へ行ったじゃない」
「えー、あんな前の話、この間とは言わないよ」
……まだ、一週間も経ってないじゃない、などと言葉を交わしていると、
「ようよう彼女、ちょっと俺たちと遊ばね?」
耳障りな、軽薄な声が割り込んできた。
何かと目をむけてみれば、いわゆる不良風の若者が三人、紗織たちの前に立ちふさがっている。
周囲を見渡してみても人気はなく、助けは期待できそうにない。
怯えた様子の月音を背に庇いながら、紗織は小さく嘆息した。
「……最近は治安もよくなって、こういうの見かけなくなってたんだけどなぁ」
そうでなければ、毎日の買い物でもこの道を使っていない。しかも、今日は月音を連れているのだ。
「何ブツブツ言ってんだよ」
不良の威圧的な視線を、紗織はまっすぐににらみかえした。
「急いでいるので、通してもらえますか?」
慇懃だが、いらだちを隠そうともしない紗織の声色に、しかし不良たちはニヤニヤと不敵な嗤いを隠そうともせず、近づいて来る。
「さ、紗織ちゃん……」
「ふむ……」
背中に触れる月音の手が、かすかに震えているのを感じながら、紗織は思考をめぐらす。
……戦ってもいいんだけど。でも、制服姿だし、いろいろとあとが面倒そうねぇ。駅の方に走れば人も大勢いるだろうし、
「逃げるか」
そう結論づけて実行に移そうとした、そのときだった。
「ああ、どっかで見たことあると思ってたら、思い出した」
不良のひとりが手を打った。
「この黒髪ロング、あれだ。なんか道場やってるとこの」
「道場? へえ」
隣の不良が、好奇の目を紗織にむけた。
「なんて名前だったかな。たしか……タヌキ、とか」
「狸? なんだそりゃ」
「わけわかんねえよ。狸の道場って、強えのか?」
ゲラゲラと品のない嗤い声に、紗織のこめかみがひくついた。背後で月音が、あちゃーと天を仰ぐような気配があるが、無視する。
紗織のまとう空気が一気に冷えたことに気づいた様子もなく、不良は馴れ馴れしく肩を触る。
「……まあ、どうでもいいや。それより、俺らと遊ぼうぜ、狸ちゃん?」
「…………うな」
押し殺した声で、紗織が何か言った。
聞き取れなかった不良が、何? と顔を寄せると、
「ぎゃっ!?」
不良は、悲鳴を上げて地面に倒れていた。
柔術の呼吸で投げたのだが、はたから見れば、紗織が肩に触れられた手を払い落としたら、不良が勝手に倒れたようにしか見えなかったに違いない。
「狸って言うなあぁぁぁぁっっ!!」
普段は熾火のように静かな熱をたたえている双眸に烈火の炎を燃やし、紗織は天を貫くような怒号を上げた。
紗織はもともと帰宅部なので、特別予定がない限りはまっすぐ家に帰るのが日常だった。もっとも、今の紗織は、所属しているクラブがあったとしても、行く気にはなれなかっただろう。
「……はあ」
憂鬱な溜め息がこぼれた。
他人の心の『声』は相変わらず聞こえてくる。収まるどころか、日に日に聞こえてくる頻度は多くなっていた。聞いたからといってどうにかなるような、たいした内容は聞こえてこないが、だからといって気にしないでいられるわけでもなく、気がめいる一方だ。
……この調子だと、そのうち登校できなくなりそうね。
胸の内でつぶやいて、紗織はふたたび溜め息をついた。
「紗織ちゃん、大丈夫?」
後から追いかけてきた月音が、心配そうに紗織の顔を覗き込んだ。
「顔色悪いよ? それに最近、あたしも他の人のことも避けてるみたいだし」
幼馴染が行方不明だとかで、ずっと落ち込んでいた月音だったが、先日、それが無事に見つかったという連絡を受けて立ち直っていた。
元気になってやっと周囲へ目を剥ける余裕ができたようで、紗織の様子がおかしいことにも気付きやたら気にかけてくるようになった。
「ああ……ごめん、ちょっとね」
まさか、ついうっかり心の『声』を聞いてしまいたくないから避けているのだ、などと言うわけにもいかず、紗織はあいまいな笑みを返した。
それを見て何を思ったか、月音は口元に不満そうな色を浮かべていっとき思案していたが、
「……紗織ちゃん、これから予定ある?」
と、唐突にたずねた。
「え、っと……夕飯の買い物してから帰るつもりだけど」
下校途中のスーパーで夕飯の買い物をするのも、紗織の日課であった。
「ん、じゃあ、あたしもいっしょにいく」
「えっ?」
急な展開についていけず、目を白黒させる紗織に、月音はニコリと笑みをむけた。
「ほら、あたしが自炊してるの知ってるでしょ? 今日は、紗織ちゃんと同じお店で買い物する」
月音は田舎から単身上京してきていて、学校の寮に下宿しているのを紗織は知っていた。寮には食堂もついているが、自炊する生徒も多いという。
「別にいいけど……遠いわよ?」
「気にしない気にしない。さ、そうと決まれば早く行こう!」
困惑を浮かべながらも、月音の勢いに押し切られてしまった紗織であった。
学校から電車で駅を四つ下り、少し歩いたところに、紗織行きつけのスーパーがあった。
「やあ、こうやってふたりでお出かけするのも、久し振りだね」
紗織と並んで歩きながら、月音が言った。
「この間、いっしょに遊園地へ行ったじゃない」
「えー、あんな前の話、この間とは言わないよ」
……まだ、一週間も経ってないじゃない、などと言葉を交わしていると、
「ようよう彼女、ちょっと俺たちと遊ばね?」
耳障りな、軽薄な声が割り込んできた。
何かと目をむけてみれば、いわゆる不良風の若者が三人、紗織たちの前に立ちふさがっている。
周囲を見渡してみても人気はなく、助けは期待できそうにない。
怯えた様子の月音を背に庇いながら、紗織は小さく嘆息した。
「……最近は治安もよくなって、こういうの見かけなくなってたんだけどなぁ」
そうでなければ、毎日の買い物でもこの道を使っていない。しかも、今日は月音を連れているのだ。
「何ブツブツ言ってんだよ」
不良の威圧的な視線を、紗織はまっすぐににらみかえした。
「急いでいるので、通してもらえますか?」
慇懃だが、いらだちを隠そうともしない紗織の声色に、しかし不良たちはニヤニヤと不敵な嗤いを隠そうともせず、近づいて来る。
「さ、紗織ちゃん……」
「ふむ……」
背中に触れる月音の手が、かすかに震えているのを感じながら、紗織は思考をめぐらす。
……戦ってもいいんだけど。でも、制服姿だし、いろいろとあとが面倒そうねぇ。駅の方に走れば人も大勢いるだろうし、
「逃げるか」
そう結論づけて実行に移そうとした、そのときだった。
「ああ、どっかで見たことあると思ってたら、思い出した」
不良のひとりが手を打った。
「この黒髪ロング、あれだ。なんか道場やってるとこの」
「道場? へえ」
隣の不良が、好奇の目を紗織にむけた。
「なんて名前だったかな。たしか……タヌキ、とか」
「狸? なんだそりゃ」
「わけわかんねえよ。狸の道場って、強えのか?」
ゲラゲラと品のない嗤い声に、紗織のこめかみがひくついた。背後で月音が、あちゃーと天を仰ぐような気配があるが、無視する。
紗織のまとう空気が一気に冷えたことに気づいた様子もなく、不良は馴れ馴れしく肩を触る。
「……まあ、どうでもいいや。それより、俺らと遊ぼうぜ、狸ちゃん?」
「…………うな」
押し殺した声で、紗織が何か言った。
聞き取れなかった不良が、何? と顔を寄せると、
「ぎゃっ!?」
不良は、悲鳴を上げて地面に倒れていた。
柔術の呼吸で投げたのだが、はたから見れば、紗織が肩に触れられた手を払い落としたら、不良が勝手に倒れたようにしか見えなかったに違いない。
「狸って言うなあぁぁぁぁっっ!!」
普段は熾火のように静かな熱をたたえている双眸に烈火の炎を燃やし、紗織は天を貫くような怒号を上げた。
本当はダークネスを出そうかと思ったんだけど、紗織の見せ場として戦闘シーン入れたかったので、不良を三人ほど用意してみました。
次回は純戦を予定してます。
PR
Comment
プロフィール
性別:
非公開
最新記事
(01/25)
(11/30)
(09/06)
(07/13)
(06/13)
P R