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今後の掲載予定 【小説】薫と紗織の出会い 【設定】薫の戦闘スタイルや人間関係など補足 【設定】紗織のプロフィール
2024/11/21 (Thu)18:58
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2013/04/21 (Sun)21:27

 夏祭りで奉納される神楽は、片手に鈴、片手に刀を持って舞う。普段の練習では模造刀を使うが、本番では真剣の日本刀を用いるため、自分や他の舞い手を傷つけぬよう細心の注意を払う必要があった。
 舞台の裏で、薫は緊張した面持ちで出番を待っていた。遠くからは、祭りを楽しむ人々のにぎやかな声が聞こえてくる。長いような短いような時間が過ぎて、とうとう神楽の時間が訪れた。
 すう、と深呼吸を一つして、薫は舞台にむかった。
 神楽の舞台は拝殿の正面にある。薫たち舞い手は拝殿に一礼したのち、位置についた。
 精神を統一し、片手を無造作に振る。
 シャン
 鈴の音がひとつに重なって響くのを合図に、楽師たちが演奏を始めた。
 清涼な音色に乗って、薫は舞い始める。
 ゆっくりと流れるように、しかし時にはすばやく。鈴を鳴らすタイミング、刀を振るう太刀筋、手足の動き。これまで教わったことをなぞるように、全神経を集中する。

 人だかりから少し離れたところで神楽を見る村中は、ほぉっとため息をついた。
 一心に舞う薫の姿からは、昼に出会った時の愛らしさは影をひそめ、鳥肌が立つような神々しさが感じられる。その小さな身体は大人に囲まれても決して色あせることなく、むしろ周りを巻き込んでうずの中心にいるかのように見えた。
「すごいな」
 感嘆の声をもらすと、隣にいる月音もうなずいた。
「そうですね。でも……」
 この違和感はなんだろう。
 菊翁と話し、お祓いをしてもらって消えたはずの不安が、むくむくと頭をもたげてくる。
 あそこいるのは本当に薫だろうか。そんな思いが胸の中でうずまく。
 お祓いしてもらった時にお守りだと渡された護符を、月音は両手で握りしめた。
「……薫くん」
 祈るように薫を見つめる月音は、闇の中から自分を見つめる目があることに気づかない。

 舞っているうちに、薫は不思議な感覚の中にいた。
 なにかが身体全体に満ちていくようだ。考えるより先に身体が動く。否、なにも考えずに動いている。身体が意識を超えたような感覚。否、意識など完全に溶けてしまっている。他の舞い手も見えていない。否、見えているものなど一つもない。
 無念無想の境地で、鈴を鳴らし、刀で空を断つ。
 そして最後に鈴を力強くシャリンと鳴らし、薫は気を失った。

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2013/04/17 (Wed)13:43

 薫が村中に挨拶していたころ、美花は洗濯物を干し終わり、ふとだれかがこちらにむかって歩いて来るのに気づいた。
「美花さーん! おひさしぶりです!」
「月音ちゃんじゃない。久しぶりね」
 相手が知り合いの少女と気づき、美花は笑顔で迎えた。
 彼女は村永・月音(むらなが・つきね)。ふわふわとしたぬいぐるみのような雰囲気のある美少女だ。年は十六。龍田家とは昔から家族ぐるみの付き合いで、中学生のころはよく神社の手伝いをしてくれていた。この春に東京の私立高校に進学したので、実に四か月ぶりだろうか。
「帰って来るなら連絡してくれたらよかったのに。上がってく?」
「はい。実は、菊おじいちゃんにお願いがあって」
 月音はホッとしたように笑った。
「お義父さん? 今はお客さんが来てるから、ちょっと待ってもらわないといけないけど、どうしたの?」
「家に帰ったら玄関先にこれが落ちてたんです」
 そう言って月音が見せたのは、一本の矢だった。
「ウチで売ってる破魔矢じゃないみたいだけど、これがどうしたの?」
「これって、『白羽の矢』だと思うんです」
 確かに、月音の持つ矢の羽は白かった。
「帰る途中に、同じバスに乗り合わせたおばあさんから気味悪い噂を聞いたばかりだから、なんだか怖くて」
『白羽の矢がたった家は、娘を一人生贄にさしださなければならない』。その噂は美花も聞いたことがあった。
 生贄を要求するのは猿の化け物で、要求を無視しても力ずくで娘をさらっていくのだそうだ。
 どうやら、神のふりをした猿の化け物が「娘をさしださなければ、村を滅ぼす」と言って生贄を要求していたという昔話が元になっているらしい。
「何もないならいいんですけど、できたらお祓いとかしてほしいなって」
 月音はこういうオカルトじみた話が苦手だったと美花は思い出した。霊感が強いのか、昔から不思議なものを視たり聴いたりする娘だった。それのため、美花も大げさだと笑い飛ばすようなことはしなかった。
「とにかく、相談してみなさい。そうそう、用事がすんでからでいいから、薫にも会ってあげて。喜ぶわ」
「はい。薫くんって、今夜の夏祭りで神楽を舞うんですよね。すごいなぁ」
 などと話していると、玄関から村中が顔を出した。
「村中さん、お話は終わりました?」
「はい。いろいろ面白いお話を聞かせてもらえました」
 笑顔で答える村中だったが、月音の方に視線を移すと、ハッと目を見開いた。
「……あ、あんたは」
「え?……と、村永・月音といいます。あ、あの、何か?」
「い、いや、なんでもない。気にしないでくれ」
 思わず素が出たといったところか。村中はやや乱暴な口調で何かをごまかすように言うと、いそいそと参道の方に歩いて行った。
「……何なんですか? 今の人」
「さあ。東京から来た人らしいけど……」
 眉をひそめて、二人は顔を見合わせ首をかしげた。

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