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今後の掲載予定 【小説】薫と紗織の出会い 【設定】薫の戦闘スタイルや人間関係など補足 【設定】紗織のプロフィール
2024/12/04 (Wed)01:47
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2013/04/26 (Fri)11:47

 女性について行くと、細いけもの道を進んでいるようだった。
「ところで、キミ」
 歩きながら、女性が口を開く。
「自分の名前は覚えてる?」
 奇妙な問いにきょとんとしたが、女性が物言いたげにこちらを見たので慌ててうなずく。
 ……龍田・薫。しっかりと覚えている。
「そう、よかった。さ、ついたわよ」
 言われて初めて、薫は開けた場所に来ていることに気づいた。
 なにもない、広間のような空間だ。
 広間の中心には大きな楓の木があり、他の木々はそれから一歩引くように距離を取っている。
 女性にうながされ、薫は楓の木に近寄った。
 見事な木だった。
 どっしりと大地に根を張り、幹は太く、枝は天をつかむように高く広く伸びている。
 そして、葉はひとつ残らず美しい紅に染まっていた。
「綺麗でしょう」
 言葉を失い、ただ楓を見上げるばかりの薫を見て、女性は自慢げに言う。
「さわってごらん」
 言われるままに手のひらを木の幹に当てる。すると、こけむした幹からなにか温かいものが伝わってくるのを感じた。心にしみいるような感覚に、全身の毛が逆立つ。
 おどろき戸惑う薫を見て、女性はほほえんだ。
「さて、キミはそろそろ帰らないとね」
 え? と首をかしげる薫を、女性は面白そうに見返す。
「あら? 自分がどこから来たか、忘れちゃった?」
 薫は首をかしげたまま自分の記憶を手繰り、ハッと思い出した。
「そう、たしか夏祭りで神楽を舞っていて、それから、それから……」
 気がつくと山の中をさまよっていたのだ。
 思い出すと、どうして川のむこうに行こうとしていたのかも分かった。
「……家に帰らなきゃ。あの、どうやったら川を越えられるの?」
 早く案内して、と薫がせがむと、女性は満足げに笑う。
「ごめんね。私が案内してあげられるのはここまで。……ふふ、そんな不安そうな顔をしないで。キミを一人にはしないから」
 そう言って、鋭く息を吐く。すると、
 オオーンッ
 遠吠えが響き、一陣の風と共に犬が現れた。否、犬とは少し違うようだ。大きさは中型犬ほどだが、その姿は犬と言うより、昔テレビで見た姿とよく似ていた。
「……狼?」
 薫の口からこぼれた言葉を聞いて、女性はよくわかったわねとほほえむ。
「この子がキミを導いてくれるわ」
 狼は薫の足もとに歩み寄り、よろしくと言いたげに見上げた。
「よろしくね」
 おそるおそる頭をなでてみると、狼は応えるように一声吠えた。
「はじめましてはすんだかな? じゃあ、私からはこれが本当に最後」
 女性はそう言って、薫の前にかがみこむとギュッと抱きしめた。片方の腕で狼も抱きこむ。
「キミたちにはなにも言う必要はないでしょうね。だけど、一言だけ。どうか心に留めておいて」
 女性は二人の耳元でなにかをささやき、腕を解いた。
「さあ、前を向いてまっすぐ走りなさい! 絶対にふりかえったらダメよ!」
 女性の叫びに背中を押され、薫ははじかれたように走り出した。その前を狼が走って先導する。
 走り去っていく薫の背を見送り、女性は独り言のようにつぶやいた。
「身体も心もまだあんなに小さい。あの子が一人で全てを受け入れ、使いこなせるようになるまで、そばで守り支えてあげてね」

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2013/04/24 (Wed)22:14

 薫は山の中を歩いていた。
 木々の枝が空を覆い隠し、足元には草が生い茂るばかりで道のようなものはなにもない。ただ、生まれ育った山でないことだけは察しがついた。
 あてもなく、道なき道を歩きつづける。足を止めてはならぬと、頭の中はそれだけだった。
 一心不乱に歩いて行くと、唐突に景色が開けた。
 目の前には、大きな川が流れている。
 ……川のむこうに行かなければ。
 なぜか、そう思った。
 ふらふらと誘われるような足取りで川に足を踏み入れようとした、その時だった。
「いけない!」
 鋭い声がひびき、だれかが薫の手をとって引き戻した。
 いきなり後ろから引っ張られ、薫は尻もちをつく。
「やれやれ。川を渡っちゃダメだって、キミは知っているでしょう?」
 呆れを含んだ声を聞いて見上げると、見知らぬ女性が薫を見下ろしていた。
「……だれ?」
 たずねながら、薫は目の前の女性を知っているような気がした。
 足元に届くほど伸びた髪は烏の濡れ羽色。身にまとう巫女服は着古した感じがあるが、しっかり手入れをされているのか見苦しさは感じられない。
「キミにはもみじの葉が見えない? せっかく川彩っている錦を乱すなんて、もったいないじゃない」
 女性は薫の問いを無視して、川を指差した。
 言われるままに視線を移すと、たしかに、川には紅や黄色に色づいた木の葉が数えきれないほど流れており、まるで上等な錦のようである。
「……もみじ?」
 今は夏だったはずなのに、と薫は首をかしげた。周囲の木を見渡しても、どの葉も青々としている。
 しかし、その疑問はすぐに頭から抜け落ちてしまった。薫にとっては、もっと大事なことがあるのである。
「むこう側に行かないと」
 彼岸を見やり、困った風に女性を見上げる。
 川を渡るなと女性は言うが、なんとしてでもむこうに行かないといけないのだ。
 薫の視線を受けて、女性はついて来なさいと言って歩き出した。
「回り道すれば行けるわ。案内してあげる」
 薫は立ち上がって、女性の後を追った。
 女性は川岸から離れ、山林の中に分け入って行った。

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