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今後の掲載予定 【小説】薫と紗織の出会い 【設定】薫の戦闘スタイルや人間関係など補足 【設定】紗織のプロフィール
2024/11/21 (Thu)19:10
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2013/04/15 (Mon)14:39


 静岡県北西部、北遠地方ともよばれる地のとある山中に小さな村がある。その村から少し山を上ったところに龍田神社はあった。一応、奈良県にある龍田大社の分社にあたるらしい。
 もっとも、薫自身は実家が奈良の大神社とかかわりがあるということを知識としては知っているものの、まったく実感がなかった。
「こんにちは、薫ちゃん。いいお天気ね」
「あ、山中のおばさん、こんにちは」
 学校からの帰り道、知り合いに声をかけられ薫は足を止めてぺこりと頭を下げた。
 しばらく雨が続いていたが、今日は久しぶりに気持ち良い青空が広がっていた。七月なかば、今日から夏休みだ。学校の友人たちも、天気がいいことをよろこんでいた。
「今夜は夏祭りね。今年は薫ちゃんも神楽を舞うんでしょ。楽しみねぇ」
 薫はうれしそうにうなずいた。
 この村では、終業式と同じ日の夜に夏祭りがあった。
 夏祭りでは、神楽舞の奉納を行う。薫も神社の子として毎年舞っているが、これまでは稚児舞、つまり子役としてであった。
 ところが、今年からは大人の舞う神楽舞を舞うようにと祖父から言われたのだ。
 薫は舞い手として上達してきている。そろそろ大人と同じように扱ってもよかろうと祖父は考えたそうだが、大人たちの舞を見てひそかにあこがれを抱いていた薫は飛び上がってよろこんだ。
 稽古は厳しく、せっかくの長休みにも遊ぶ時間がないのは残念だったが、全ては今夜のためだ。
「がんばってね。おばさんも楽しみにしてるわ」
「うん、ありがとう!」
 もう一度頭を下げて、薫は歩き出そうとしてズルッとすべった。
「あっ……とっとと」
「だいじょうぶ? 雨で道がぬかるんでるから、気をつけてね」
 山中の小さな村だ。舗装などされていない。
 バツの悪そうに笑って、薫はまた歩き出した。
 ぬかるんだ道には慣れているので、気をつけてさえいれば転ぶ危険はそれほどない。
 転ぶことなく無事に家までたどり着くことができた。
 薫の家は二階建ての古い一軒家で、神社へつづく参道の脇にある。そこそこ伝統のある家で、中には土間があり、部屋は畳を敷いた和室といった、いわゆる日本家屋である。もっとも、あちこちリフォームされたりもしているので、それほど古い印象は抱かないかもしれない。
 ちょうど庭で洗濯物を干していた母が薫を出迎えた。
 母は名を美花(みか)といって、年は二十九と小学五年生の子持ちにしてはかなり若い。ややつりぎみの目つきが勝気な性格を表していた。
「あら、薫。おかえりなさい。お祖父ちゃんが待ってるよ」
「ただいま。……なんだろ、すぐ行く」
 玄関をくぐろうとすると、母の声が追いかけてくる。
「お祖父ちゃんは居間にいるからね」
「はーい」
 返事をして、薫は祖父の待つ居間へとむかう。
 居間には薫の祖父、龍田・菊翁(きくお)と客人らしき見知らぬ女性が待っていた。
「おお薫、おかえり」
 菊翁は小柄な老人だった。年は五十九。愛嬌のある丸顔の好々爺だ。子どもっぽいところがあるが、村人からは祖母と並んで頼りがいのある相談役として慕われている。
「こちらは東京から来た村中さん。ウチの夏祭りの神楽に興味があるそうだ」
 菊翁に紹介され、村中は相好を崩して小さく手を振った。
 年は美花と同じくらいだろう。二カッと歯を見せて笑う姿は女傑という言葉が似合いそうだが、どこかだらしない雰囲気があった。
 それにしても、こんな山の中の小さな村までやってくるとは、よほどの物好きらしい。
「せっかく来たんだから、神楽の内容や神社の成り立ちなんかを聞かせてもらおうと思ってね。ダメもとでお願いしたら、快く引き受けてもらえたよ。神主さんはお忙しいだろうに、約束もなく押しかけたのは本当に申し訳ない」
 薫の家にいる理由を説明する村中は、言葉ほど反省している様子はない。
 ずうずうしいというよりは、もともとあっけらかんとした性格をしているだけのようだ。
「まあ、気にしなさんな。わしはもう隠居同然。実際の仕事はほとんど息子に任せてるんで、ヒマですからの」
 菊翁が笑いながら言うと、村中は礼を言って出て行った。
「変わった人だね」
「いきなり訪ねてきたときは何事かと思ったが、悪人には見えんかった。まあ、大丈夫だろう」
 菊翁は肩をすくめ、薫に準備をしてくるように言う。
 村中に対して、なにか引っかかりを覚えた薫だったが、結局その正体をつかめぬまま、自分の部屋にむかったのだった。

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2013/04/11 (Thu)23:39
硯に水を垂らし、墨をする。すりおわったら筆を手に取り、深呼吸をひとつ。墨を付けたら、流れるように筆を動かす。勢いよく、されど丁寧に。胸の内で祖父母の教えを繰り返しながら、迷いのない筆遣いで書き進めていく。
「……できた!」
 見事に書き上げ、薫(かおる)は歓声を上げた。筆をおき、改めて自分の作品を見下ろす。
 薫は小学五年生の男の子で、姓を龍田という。頭を動かすたびに雪のように白い髪が軽やかに揺れる。小柄なことに加え、かわいらしい顔立ちなので女の子といっても通じそうだった。
 薫は小さな神社の一人息子だ。そのため、神社の跡取りとして祖父をはじめ家族から教育を受けていた。今もその一環として、神社の護符を書いていたところである。長い練習をつんだかいあって、今では手本がなくともそらで書くことができる。その腕前は、薫の上達具合を見た祖父が、そろそろ売り物の護符を書かせてもいいだろうと言うほどに達していた。
 墨が乾いたことを確かめると、しわが寄らぬように慎重に護符を持ち上げる。何度見ても文句なし、これまでで最高の出来栄えだ。
 さっそく祖父に見せようと、小走りで廊下を駆けて行く。その後を追うように、窓が開いていないのにもかかわらずそよ風が廊下を吹きぬけて行った。

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