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今後の掲載予定 【小説】薫と紗織の出会い 【設定】薫の戦闘スタイルや人間関係など補足 【設定】紗織のプロフィール
2024/11/21 (Thu)18:34
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2014/07/16 (Wed)22:07
「ん、やっと終わった」
 校門をくぐった薫は空を見上げてうんと伸びをして、ランドセルを背負い直した。
 龍田・薫は小学6年生、あと数日で12歳になる。小柄な上に女の子と見まごう可愛らしい顔つきの持主だが、それほど幼く見えないのは静かに大人びた光を宿す藍色の瞳のためだろうか。
 今日は週末で、学校は休みだったが、薫は補習を受けるためにひとり登校していた。
 薫の成績が悪いため、というわけではなく――むしろ、成績優秀と言って差し支えないほどである――薫がやむおえぬ理由で授業を欠席していたためだ。
 一月ほど前、ダークネスとの戦いで薫は闇堕ちして行方をくらませていた。それから、仲間たちに救出されるまでの間は当然授業を受けることもできず、その遅れを取り戻すための補修だった。
 その補修も今日で終わり。来たる中間テストもばっちりである。
 帰宅しようと駅へ向かう薫だが、後ろから引きとめる声があった。
「龍田、ちょっと待て」
「ん、神崎さん? なんです?」
 振り返って見れば、同じ井の頭キャンパスに通っている神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)であった。
「俺の瞳に未来が映った。龍田よ、お前の行く手に邪悪な影が立ちふさがる!」
「え、と……?」
 ある意味では年相応と言えなくもない、ヤマトの独特の言い回しをどう解釈したものか、薫は首をかしげる。
「あー、つまりだ。未来予測があった」
「……!」
 途端、薫の顔が引き締まった。
「ついさっき未来を視たばかりで、資料のひとつも用意できていないんだけどな。龍田、このあと予定があるだろ?」
「えっと、これから、幼馴染に会いに行くことになってるんですけど……」
 そう答える薫には、不安そうな表情が浮かんでいた。話の流れに、不穏なものを感じたのである。
「お前はそこでダークネスと遭遇するだろう。場合によっては、その幼馴染が事件に巻き込まれる可能性もある」
 だが心配するな、とヤマトはポーズを決めてつづけた。
「俺の脳に秘められた異形の領域、全能計算域(エクスマトリックス)が生存経路を導き出す!」
「は、えっと……よろしくお願いします?」
 いまひとつ、ヤマトの勢いについていけていない薫だが、ヤマトは特に気に留めた様子もなく、自分に酔っているような、いつもの調子である。
「未来予測によれば、龍田がひとりで現場に向かうのがベストのようだ。学園からの増援はないものと思ってくれ。……俺は引き続き解析を行う。新たに視えたことがあれば連絡するから、アドレスを交換しておくぞ」
「はい、わかりました。ぼくもむこうで何か分かったら連絡しますね」
 薫はヤマトと連絡先を交換し、ふたつ三つ言葉を交わしてから別れた。
 はやる心を抑えながら、駅のある方へ歩いて行く薫の背を、ヤマトは見つめていたが、すぐにきびすを返して校舎へもどって行く。



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2014/06/23 (Mon)00:12
_紗織が、遊園地で角の生えた男の子に襲われてから、一週間ほど過ぎていた。
 大勢の人が一度に意識を失うという奇妙な事件であったが、なぜだか一切ニュースにならなかった。
 腑に落ちなかったが、同じくその場に居合わせた月音に相談しようにも、
 ……月音は月音で、それどころじゃないみたいだしね。
 胸の内で嘆息して、昇降口で上履きに履き替えていると、月音の姿が目に入った。
「おはよう、月音」
「……あ、紗織ちゃん。おはよう」
 声をかけると、月音は元気のない笑顔を返した。
 目の下にはうっすらと隈が浮いており、ふんわり真綿のように軽やかな髪も、心なしか湿り気を含んだようにうなだれている。
「まだ、見つからないの?」
「……うん」
 紗織が訊くと、月音はへにゃりと目じりを下げた。
 何でも、月音の幼馴染が、行方不明になっているそうなのだ。月音がそのことを知ったのが、遊園地から帰ってきたその日。はじめの二、三日は部屋にこもりっぱなしで、最近やっと学校には顔を出すようになったが、まだ声をかけづらい様子だった。
 そんなわけで、紗織も遊園地での事件のことを相談する機会を見つけられずにいたのであった。
「そう……きっとだいじょうぶよ。無事を信じて」
 そんな言葉しかかけられない自分を歯がゆく思いながら、肩をたたくと、月音は小さくうなずいた。
「うん、そうだね。あたしが信じないでどうする、だよね」
『薫くんは、絶対だいじょうぶ』
 ふいに、月音の言葉にかぶさるようにして、『声』が紗織に届いた。
「……カオルくん?」
 無意識にこぼれた声を聞きとったか、月音が目を丸くする。
「あれ、声に出してた?」
「え、あ……ま、まあね」
 気まずそうに目を泳がせる紗織に、月音は首を傾げた。
「あ、私トイレに行くから、先に教室行っといて」
「え? う、うん。分かった」
 怪訝な顔をしながらも、ひとり教室へむかう月音を見送ると、紗織は額を抑え溜め息をついた。
「……まただ」
 今朝の父も、先ほどの月音も、決して声に出していたわけではなかった。
 遊園地から帰って来たころから、頭を悩ませてきたことだった。
「……心の声が聞こえるなんて、どこのマンガよ」
 ときおり、そばにいる人の声が耳に届くようになった。ところが、その人は何も言っていないという。
 最初は、空耳かと思った。疲れのせいだと放っておこうとしたのだが、聞こえてきた声が、その人が考えている内容に一致しているのだと知ると途端に恐ろしくなった。
 それほど頻繁に聞こえるわけではないが、他人の心の声が聞こえるなど、しかも己の意志に関わらず聞いてしまうなど、どうしたらいいかわけが分からなかった。かといって、だれかに相談しようにも、紗織が心を読めると知られたら、どんな目で見られるか、そう思うと、だれにも打ち明けることもできずにいた。
「……教室行くかな」
 物憂げに、紗織が教室へと足をむけた、そのときだった。
 紗織の耳に、『声』が届いた。
 きた、と身をこわばらせる紗織だが、
『〇◆☆※▲』
「え?」
 きょとんと目を瞬いた。
 これまで聞こえた心の声は、ちゃんと意味のある言葉だった。しかし、今回聞こえてきたのは、それとは異質な、たんなる言葉の羅列。まるで、何も考えず適当に声だけ出しているかのような、まったく無意味なもの。こんな『声』を聞いたのは、はじめてだった。
……いったい、だれの?
 辺りを見回すが、紗織がいるは登校時間の校内。生徒や教職員が大勢いたし、『声』が聞こえたのはほんの一瞬だ。だれだったのかを特定することは不可能だった。
「…………」
 ざわつく胸を抑えながら、紗織は『声』の主を探すのをあきらめて、教室へむかうのだった。
To be continued

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