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今後の掲載予定 【小説】薫と紗織の出会い 【設定】薫の戦闘スタイルや人間関係など補足 【設定】紗織のプロフィール
2024/05/20 (Mon)09:05
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2013/05/02 (Thu)01:00
翌朝、月音は薫の家を訪ねた。
 昨日は村人たちに保護され、そのまま家に帰ったので、昨日の事件はなんだったのかモヤモヤしていたのだ。
 もしかして夢ではなかったのかという思いを捨てきれぬまま薫を訪ねると、となりに狼がつき従っているのを見てやはり夢ではなかったのだと確信した。
 昨日の事件については、薫が説明してくれた。薫自身もまだ理解できていないことが多かったため、要領の得ないところがあったが、おおむね納得することはできた。
 にわかには信じがたい話だったが、昔から不思議なものと接点が多かったからだろうか、すんなりと信じた。薫自身も村中の話が真実だと感じていたことも大きいかもしれない。
「それで、薫くんはその学園に行くの?」
「うん、家族みんなで話し合ったし、いろいろ考えたけど、行こうと思う」
 多くは語らないが、薫なりに考え抜いた結論なのだろう。藍色の瞳には決意の光が見えた。
「そっか、あたしも東京の学校だから、むこうでも会えるかもしれないね」
 その後も少し話してから、月音は席を立った。
「じゃあ、またね。昨日は助けてくれて、本当にありがとう」
 最後に、改めてお礼を言った。
 キミもね、と狼の頭をなでてやる。
 薫はくすぐったそうに笑ったが、ふと思い出したように手を打った。
「そうだ。月姉には言ってなかったっけ。この子に名前をつけたんだ」
「へえ、なんて名前?」
「『しっぺ』」
 オンッ
 薫が名を言うと、狼はどこか誇らしげに一声吠えた。
「昨日、猿たちがこの子を見て、『しっぺい太郎だ!』って叫んだでしょ。それで、しっぺい太郎を縮めてしっぺ」
 しっぺい太郎は、化け猿の都市伝説のモデルとなった昔話に登場する霊犬だ。化け猿の天敵で、山犬――狼の子だと言われている。他にも、早太郎、へいぼう太郎、疾風太郎など、いろいろな名前で、日本各地で語られる有名な昔話だそうだ。
「ふうん、頼もしいね」
 月音はほほえんで、もう一度しっぺをなでた。
「それじゃあ、しっぺくん。薫くんをお願いね」
 まかせろ、と言うように胸を張るしっぺを見て、月音も薫も楽しそうに笑う。
 二人の笑い声を乗せて、夏の風が躍るように村を吹きぬけて行った。
[ To be continued ]

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2013/05/01 (Wed)18:00

 戦いの後、薫を待っていたのは両親と祖父母からのお説教だった。四人に拳骨をもらったり泣かれたりして、思い切り叱られた。
 それから家に帰り、風呂に入って戦いの汗や泥などの汚れを落としていると、村中が訪ねてきた。化け猿の正体や、薫の身に起こったことについて説明したいのだという。
「美花さんと一緒になって薫を止めるどころか、たった一人でむかわせたんでおかしいとは思っとった。詳しく説明してもらいますぞ」
 いつもの子どもっぽい雰囲気を消し、厳しい表情で菊翁が言った。
「それについては申し訳ないと思っています。でも、薫くんにしか村永さんを助けることはできなかった」
 そう前置きして、村中は話し出した。
 この世界の真実を。世界の裏側で暗躍するダークネスの存在。サイキックとよばれる不思議な力。
「薫くんのような存在は『灼滅者』と呼ばれています。薫くんは灼滅者のなかでも、清浄な風を操る力――便宜上『カミ』と私たちは呼んでいます――を身に降ろす『神薙ぎ使い』。そして、薫くんのそばにいる狼くんは『霊犬』。悪を許さない苛烈な正義の心から生まれるといわれる、魂の分身です」
 村中は、自分が『武蔵坂学園』という学校の教師だと、身分を明かした。なんでも、薫のような灼滅者の子どもたちが集まる組織らしい。彼女の目的は、薫を学園に勧誘することなのだそうだ。
 菊翁が理由をたずねると、村中は緊張した面持ちで指を三つ立てた。
「大きな理由としては、三つ挙げられます。一つは、力の制御。学園には、専門の研究者が大勢いますし、設備も充実しています。灼滅者の力と上手く付き合っていけるように、最大限のサポートをしていきます」
 まず、一本目の指を折る。
「二つ目ですが、ダークネスや実体化都市伝説――あの化け猿もその一種です――を倒すことができるのは、サイキックを扱える灼滅者だけです。今回の事件のように、危険にさらされる人々を救うため、薫くんにも力を貸してほしいんです」
「それは、薫に兵隊になれ、ということか?」
 鋭い目をむけたのは、薫の父だ。村中は、それをまっすぐに受け止める。
「否定はしません。ですが、灼滅者は唯一ダークネスの脅威となり得る存在です。そのため、これまで灼滅者に目覚めた者がいても、すぐダークネスに見つかって殺されていました。目覚めた以上戦いは避けられないでしょう。組織に入れば、敵もそう簡単には攻めて来れません。だから、薫くんの安全のため、というのも信じてください」
 そして、二本目の指を折った。
「最後の理由は、先の二つにもつながるのですが、『闇堕ち』です。灼滅者の異能は、ダークネスのそれと同じものです。同じであるが故に、彼らは常にダークネスへ堕ちる危険と隣り合わせです。薫くんの場合は、『羅刹』。享楽のままに生きる鬼族」
 羅刹、その単語を聞いた瞬間、薫は全身に鳥肌が立った。思わず、己の腕に目をやる。
 化け猿にとどめを刺した異形の腕、あれはまさしく、鬼の腕だった。
 心まで鬼と化してしまったら。
 それが充分にあり得ることであると、薫は直感的に感じた。
「幸いにして、薫くんはしっかりと人の心を保っています。しかし、どんなきっかけで羅刹と化すかわからない。私たちの学園なら、闇堕ちすることがないよう全力でフォローすることができます。万一闇堕ちしても、人に戻すために可能な限りの対策を取ります」
 薫たちは押し黙ってしまった。
 村中は誠心誠意話してくれたように見えた。しかし、受け入れるには突然のことで、あまりにも重い話だった。
 さすがに、その場で答えを出すのは難しいだろうと、村中は武蔵坂学園のパンフレットを置いて帰って行った。
「それにしても、おどろいたわねぇ」
 何事にも動じない祖母も、さすがに困った様子だ。
「薫ちゃんはどうしたい?」
「ぼくは……」
 パンフレットを持ったまま、薫は口ごもった。
「無理しなくていいのよ」
「ああ、学園に行かなくても、俺たちが守ってやる」
 両親は薫をやりたくないようだ。しかし、村中の言うことが正しければ、薫だけでなく家族や村人たちも危険にさらす可能性だってある。
「まあ、わしらもいろいろと思うところはあるが、最終的に決めるのは薫だ。まずは一晩、ゆっくり考えてみるといい」
 結局、菊翁の言葉を最後に、その場はお開きとなった。

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