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今後の掲載予定 【小説】薫と紗織の出会い 【設定】薫の戦闘スタイルや人間関係など補足 【設定】紗織のプロフィール
2024/05/20 (Mon)08:01
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2013/11/26 (Tue)19:41
とある私立高校の校門前。
 六月の雨が降る中、龍田薫は一人、傘を片手に立っていた。
 薫が通う武蔵坂学園に比べれば小さいものの、立派な学校だった。他府県からの入学者も多いという、なかなかの名門として知られているらしい。
 ……そろそろ、下校時間かな。
 何度目になるか、時計を確かめたころ、終礼のチャイムが鳴った。ほどなくして、帰宅する生徒たちが次々と校門をくぐって出てくる。
 薫は小学6年生。雪のような白髪に、女の子と見まごう容姿の持ち主だ。当然、人目を引いてしかるべきであるが、生徒たちは誰一人として薫に目を向けない。《旅人の外套》といって、不思議な風を纏うことで人々から認識されなくなる異能である。
 そうして、薫は注目を浴びることなく校門に目を向けていると、一人の少女と目が合った。
 《旅人の外套》を発動しているにも関わらず、少女は薫に気づき、驚いた顔をする。
「また来たの?」
 薫が駆け寄ると、少女は困ったように眉をひそめた。
 彼女こそ、薫が待っていた少女である。名は田抜紗織といった。
「田抜さん、ぼくに剣術を教えてください」
「それなら、断ったでしょ」
 頭を下げる薫にすげない返事をして、紗織は歩き出した。
「あ、待って」
 薫は他の生徒たちにぶつからないよう一旦人の流れから離れ、紗織を追いかけた。
 紗織は近所にある剣術道場の一人娘だった。女だてらに幼いころから剣一筋に稽古をつづけ、今ではかなりの腕である。
 とある事件で、薫は紗織の剣術を目の当たりにし、是非とも弟子になりたいと望んだのだ、
 薫が弟子入りを望んだのは、紗織の剣の精妙に触れたからだが、もうひとつ理由があった。
 紗織は、武蔵坂に所属していないものの、灼滅者だったのである。異能について、ダークネスとの戦いについてよく知っている相手だからというのも、師に望んだ理由であった。
「どうか、お願いします」
「……あのねぇ」
 人がばらけてきたところで再び駆け寄ると、紗織はうんざりした顔をした。
「だいたい、なんで私なの? 君の学校にも、剣の達者はいるでしょうに」
「それはそうですが……でも、ぼくは田抜さんの剣を学びたいんです」
「私だって修行中の身よ。第一、灼滅者としての力量は君の方が上じゃない。私が教えられることなんてないわ」
「剣士としては田抜さんの方が上ですよ。それに、技だけじゃない。剣の心を、道を学びたい!」
 薫の熱弁に、紗織は困ったようにため息をついた。
 これまでも、紗織がいろいろと理由をつけては弟子取りを拒んでいた。
 なんでも、紗織とはもっと前、薫が闇堕ちしているときに会ったことがあるそうだ。薫は羅刹へと闇堕ちしていたときの記憶を失くしているため覚えていないが、その時の出来事が大きく影響しているのではないかと薫は考えていた。
 今日こそは承知してもらおうと、薫がさらに言葉を紡ごうとした時だった。
「おお、紗織か」
 不意に、割り込んでくる声があった。
 年は40半ばといったところか。人のよさそうな顔をした男が近づいてきた。誰かと思えば、紗織の父である。
「独りで何をしゃべってるんだ?」
「え? 父さん、何言ってるの?」
 困惑する紗織の隣で、薫がアッと声をもらした。
「そういえば《旅人の外套》」
 《旅人の外套》は灼滅者には効果がない。紗織と普通に話していて失念していたが、紗織の父をはじめとして一般人には薫の姿は見えないのだ。
 《旅人の外套》を解除して初めて薫に気づいた紗織の父は、目を丸くした。
「おや、これは失礼。お嬢ちゃん、紗織の知り合いかい?」
「…………」
「父さん、男の子よ」
 普通に女の子と間違われ、情けなく眉を下げる薫を見て、紗織は苦笑した。
「なに!? ……あー、それは失礼」
 紗織の父は気まずそうに謝罪して、思い出したように手を打った。
「そうだ、忘れるところだった。紗織、ちょっと用事で出かけることになった」
「ん、わかった。帰りは遅くなる?」
「たぶんな。一段落したら連絡するから」
 手短に話して、紗織の父は足早に駆けて行った。
「えと、今のは田抜さんのお父さんですか」
「そうよ。一応、うちの道場主……弟子入りしたいなら、あっちに頼むのがすじなんじゃない?」
「……あー」
 薫は、言われてみればそうかも、というような顔をする。
「お父さんは、灼滅者のこと知ってるんですか?」
「……まだ言ってない」
「だったら、やっぱり田抜さんでないと」
「それはお断り」
 そっぽを向いて歩き出す紗織を、薫は慌てて追いかける。
 二人の関係は、まだまだ始まったばかり。



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2013/07/21 (Sun)17:09
田抜・紗織(たぬき・さおり)は途方に暮れていた。
 クラスメイトと遊園地へ向かっていたはずなのだが、いつの間にかはぐれてしまったらしい。
「……まったく、高校2年生にもなって迷子なんて、仕方ないなぁ」
 などとぼやいているが、人気のない路地裏を歩いている時点で、迷子になっているのは紗織の方なのは疑いようがない。
 ただ、紗織は自分の方向音痴について、まったく自覚がなかった。
「まあ、遊園地に着いたらなんとかなるかな」
 バックを持ち直し、危機感のないままに歩いていると、不意にかわいらしい、愉しげな声が背後から聞こえた。
『……何やってんの♪』
 驚いて振り向くと、そこには小学生くらいの男の子が立っていた。
 髪は雪のような純白。女の子と言っても通じるような顔立ちだ。もとは白かったであろう水干はボロボロで、血に染まり黒ずんでいる。特に胸元は横一文字に大きく切り裂かれていた。
「……!! ひどい傷。君、だいじょうぶなの?」
『ん、何が?』
 顔を青くする紗織に対し、男の子はわけもわからないように首をかしげた。
「だれがこんなこと。……刀の傷、それもこんなきれいな……人斬りに慣れた人?」
 紗織のつぶやきを聞いて何を思ったのか、男の子はニタァと笑った。
『へえ、おねえさん。見ただけでそんなにわかるんだ?』
「うちは剣術道場だから。さすがに真剣は使った事ないけど……って、そんなことより。救急車を呼ばないと」
『ああ、いいからいいから。こんなの5日もあれば治るよ』
 携帯を取り出す紗織を、男の子はへらりと笑って制した。
『だけど、じっと怪我が治るのを待ってるのって退屈なんだよね。だからさ……暇つぶしに付き合ってよ』
 ニィッと頬を歪める男の子に不吉なものを感じて紗織が後ずさると、不意に風が吹いて男の子の前髪を書き分けた。
 あらわになった額にあったのは、小さな黒曜石の角。
「なっ……。つ、角!?」
『ニィヒヒヒッ!』
 ケラケラと笑って、男の子――子鬼が腕を伸ばしてくるのを必死でかわし、紗織は泡を食って逃げ出した。
『逃がさない♪』
 子鬼は愉しげに笑って、一跳びで紗織の前に回りこんだ。
『だいじょうぶ、殺しやしないよ。ちょっと遊び相手をしてくれたら、すぐに帰してあげる』
「あ、遊び?」
『そう、遊び。何がいいかなァ。……そうだ! おねえさん、剣術やってるんでしょ? だったら』
 そう言って、子鬼はどこかへ姿を消したかと思うと、あっという間に戻ってきた。
 その手には、鉄パイプが握られている。
『一本勝負♪ 今ならハンデで、素手で相手してあげるよ☆』
 投げ渡された鉄パイプの重みを感じ、紗織は覚悟を決めた。
 逃げられない以上、やるしかない。
 青眼に構えた紗織を見て、子鬼は笑みを深くした。
 そして、
 轟!
 いともたやすく、紗織は吹き飛ばされた。
 倒れた紗織に、子鬼がケラケラと声をかける。
『だめだめ。身体が硬いよ。だいたい、カバンを持ったまま戦うとか、馬鹿じゃないの?』
 紗織は歯噛みした。子鬼の言う通り、バックを降ろすことも忘れているようでは勝ち目はない。
「やあっ!」
 起き上りざま、鉄パイプを振るうも、簡単に避けられてしまった。
 立て続けの連撃はかすりもしない。それどころか、紗織のバックを物色する余裕すらみせる。
「こ、こら! 勝手に見るな!」
『口惜しかったら、取り返してみな♪ ……おろ?』
 キョトンと子鬼が首をかしげた。紗織の携帯が鳴りだしたのだ。
 通話ボタンを押したのを見て、紗織が目を向く。
「何を勝手に……!」
『もしもし、紗織ちゃん? 今どこにいるの? あたしたちはもう遊園地に着いたよ』
『……なるほど』
 電話の主が紗織の友人と察して、子鬼は邪悪な笑みを浮かべる。
『ねえ、おねえさんってさ。人質とかいるとがんばれるタイプ?』
「なっ!? ま、まさか……」
『ニィヒヒヒッ♪』
 子鬼の不愉快な笑い声が響き、血の気が引いた顔がカッと熱くなった。
「何をする気?」
『そりゃ……ねえ』
 お察しの通り、と言いたげな子鬼の笑みを見て、紗織は身体が炎のように熱くなっていくのを感じた。
「私の、友達に……何をする気だ!!」
 怒号とともに一閃。
 胴への一撃を危うくかわした子鬼へ、袈裟への斬り返し。さらに逆袈裟へと三の太刀を見舞う。
『とっとと。ち、ちょっとタンマ! 速くなりすぎじゃない!?』
「黙れ!!」
 戸惑う子鬼へ、詰め寄る紗織は上段の構え。
 斬!
『がはっ……!?』
 首元へもろにくらって、子鬼はその場に倒れた。
「――田抜流、滝落とし。……って、聞こえてないか」
 バックを拾い上げ、倒れたままの子鬼を一瞥すると、背を向けて歩き出す。
「ごめんね。本当なら、手当くらいしていった方がいいんだろうけど……」
『いや、とどめを刺す方が普通じゃない?』
 予想外に元気な声が返ってきて、紗織は驚いてふりかえった。
 手応えから、確実に鎖骨を砕いたはずだった。なのに、子鬼はケロッと立ち上がっている。
 痛たたた、などとわざとらしく首に手をやってるのが妙に芝居くさい。
「き、効いてない……?」
『や、ちゃんと効いてるよ? でも、びっくりしたなぁ。今のサイキックでしょ。おねえさんはダークネス……って感じじゃないから、灼滅者?」
「は? さ、サイキ……?」
 聞いたことのない単語に目を白黒させていると、子鬼は目を丸くして、次第にニヤニヤと笑みに変わっていく。
『ホントに何にも知らないんだ? もしかして、まだ目覚めてないの? へえ、おっもしろいんだー』
 その瞳は、純粋な好奇心でキラキラと輝いている。先ほどの邪悪な色がうそのようだ。
『今日のところは約束だから帰してあげる。でも、この先何かあったら、ボクに連絡ちょうだい。何だか愉しそうな予感がするんだよね』
 書くものない? と尋ねられて、勢いに押されたままバックからメモ帳をさしだすと、子鬼はさらさらと携帯の番号を書いて紗織に渡した。
『ニィヒヒヒッ♪ じゃあねー』
 愉しそうに笑って、子鬼は走り去っていった。
「…………何だったんだろう」
 紗織は脱力してへたり込み、子鬼の後ろ姿を見送った。
シナリオ『涙を浚う、風雨の化身』へつづく

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